0.シナリオ概要
1.KP向けデータ
STR:8 DEX:14 INT:12
CON:7 APP:16 POW:14
SIZ:10 EDU:13
アイデア:60 幸 運: 70 知 識: 65 SAN:9
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02.導入
探偵事務所
2018年某日。探索者は共通の友人、もしくは知り合いの探偵に呼ばれ、彼の事務所に訪れている。探偵との関係性は自由だが、ちょっとした仕事の手伝いを頼める仲であることが望ましい。
慌しい事務所の中の一角に通され、程なくして少々疲れ気味の探偵が姿を現す。彼は「猫の手も借りたいくらいだ」と以下の通りに語る。
◇探偵からの依頼内容
「郊外にある洋館の持ち主から連絡があった。半ば廃墟となっている館らしくて処分したいらしい」
「しかし、長年放置されたその館に幽霊が出るという噂があるのだと言う」
「幽霊とはいかずとも、ホームレスや不審者が居付いている可能性があるかも知れない。様子を見るだけ見てきてほしい」
「勿論報酬も出すし、必要であれば事務所の車を使ってもらって構わない」
探索者が引き受ける、もしくは具体的な事を質問をする、などの行為で探偵は以下の資料を探索者に提示する。これは依頼主から聞いたり、ネットで簡単に調べただけの情報だと語る。KPは以下の文章をPLに開示する。
■郊外の館についての資料──────────────────────────────────────
‣場所は都心部から車で約二時間の場所に在る。
‣元は久世家と呼ばれた一族のもの。現在の館の所有者は久世家の遠い血縁者の子孫にあたり、まわりまわって今の所有者に押し付けられたような形にあたる。
‣久世家は今からおおよそ100年前、1919年に突然居なくなってしまったらしい。当主とその奥方、一人娘に加えて使用人7人の行方が分からない。──────────────────────────────────────────────────────
探索者が依頼を引き受けると探偵は「助かる、ありがとう」と短く述べ、また慌しく業務に戻っていく。
依頼主に話を聞きに行くこと、ネットや図書館で情報を探す、聞き込みをする、などの行動による追加情報は設定していない為、探索者はそのまま久世家の洋館に向かうことになる。
久世家の洋館
資料にあった住所へ向けて2時間車を走らせれば、久世家の洋館に到着する。周囲に民家や建物もなく、木々の間に隠れるようにひっそりと建っていた。
久世家の洋館は寂れ、荒れ放題だ。そこら中に蔦が這い、亀裂が入っている。門の一部は崩れており、鍵がなくとも出入りに不便はない。
<聞き耳>不意にかちこち、と機械的な音が聞こえた気がした。
探索者が廃墟となった洋館に足を踏み入れた時、「久世要を救える可能性がある者」としてそのまま要の居る空間へと引き込まれる。KPは以下の描写分を読み上げる。
”扉を開けるとギィ、と木と金具が軋む音がした。
そのまま扉を開ききると、そこから荒れたロビーが見えた。埃の積もった調度品、地面に落ちたシャンデリアが目につく。あぁ、酷い場所だと君たちは中に一歩踏み出した。
その時、ぐにゃりと床が沈んだ。
それと同時に、目の前の景色が急激に遠くなっていく。
何が起こっているのだろうか?
一瞬の間を置いて、君達は落下していることに気づくだろう。
そのまま君達は意識ごと闇にのみこまれいく。”
03.洋館探索
探索者は鈍い痛みと共に目を覚ます。この時、落下時に全身を打ち付けた為、強制的にHPが-1される。
辺りを見渡すと、新品の調度品、煌めくシャンデリア……すべてが風化も劣化もしていない、当時の美しさを取り戻したロビーがあった。
調度品を見れば、素人目にも一級品の素晴らしいものだと分かる。また柔らかな木の香りが優しく漂い、年季の入った洋館、といった雰囲気は感じられない。
突然の落下と状況の変化による、0/1の正気度判定が発生する。
<アイデア>成功で先ほどの荒れた館と現在の館は完全に形をしていると感じる。まるで時間が遡ったかのようだ。
<目星>成功でそこそこ広い洋館のようだと感じる。部屋数もそれに応じてかなりあるようだが、その大部分の扉にドアノブがなく、ぴっちりと閉じられている為、入れない。
客間、書斎、寝室、プライベートルームにのみ入ることが可能な事が分かる。
▼KP向け補足
この空間は現在、廃墟と化している久世家の地下に作られた空間です。要の父の実力では館全てを空間の中に再現する事は出来きませんでした。ドアノブのない部屋にはどうやっても入れず、無理に入ろうとすれば何処へつながるか分からない闇へ飲まれてしまう事でしょう。
客間
入ると、外の国から取り寄せたのであろう美しいソファ、彫刻の施されたローテーブルなどが目につく。美しいが、人の居ない場所で佇む家具は何処か物悲しい。
客室の棚には当時の雑誌が番号順に並べられている。
棚に<目星>もしくは<図書館>成功で「中央公論」という雑誌があることに気づく。創刊号からきちんと揃えられており、この洋館の主人が几帳面な性格であったことが伺える。
<歴史>もしくは<知識>-30で中央公論は明治19年(1886年)に創刊号された事を知っている。100年以上前の雑誌なんて相当古いものだろうが、手元にある創刊号はどう見ても100年以上の月日を積んだ雑誌とは思えない。まだ問題なく読める状態だということが分かる。
因みに最新のバックナンバーは大正7年(1918年)12月で止まってる。
書斎
書斎に入ると部屋の両脇に天井まで届きそうな大きな本棚がある。扉と真向いの壁には窓があり、その手前には大きな洋机が構えている。
窓の外は暗くどうなっているのか窺い知る事は出来ないが、照明はきちんとついているので行動に支障はない。
本棚に<図書館>成功で、棚の本がどれも古いものだと分かる。紐とじの古い和書、動物の皮で精製されたであろう洋書。どれもこれも、オカルトじみた内容だ。
その中で、メモが張り付けられている妙な洋書を見付ける。これも御多分にもれず古そうだ。メモには『捻じれ帯の秘術について』と書かれているのが分かる。
またメモを取ると、下に隠されてた表紙が見える。帯状の長方形の片方の端を180°ひねり、他方の端に貼り合わせた、無限大を表す記号のような図形が描かれており、見ようによっては捻じれた帯の様に見える。これに対してさらに<知識>成功で以下の情報を開示する。
□捻じれ帯のデザイン【メビウスの帯】─────────────────────────────
無限大を表す記号はメビウスの帯、またはメビウスの輪と言う。
無限の繰り返し、1周して戻ってくると向きが逆転しているという性質からあらゆるデザイン、芸術、創作作品に用いられる。有名な所ではリサイクルのシンボルマークなどがそれにあたる。
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書斎全体に<目星>成功で洋机の近くにくしゃくしゃに丸められた紙が落ちていることが分かる。
活版機で印字されたなにかの用紙のようだだ。念入りに丸められていたせいか、洋墨が滲んでいて読みにくい。<日本語>ロールに成功することで読み取ることができる。KPは以下の文章を提示すること。
■死亡診断書──────────────────────────────────────────────
氏名 久世 要
出生年月日 明治三拾三年四月拾七日 (1900年3月17日)
病死
傷病名 流行性感冒
発病年月日 大正八年一月二拾四日 (1919年1月24日)
死亡年月日時 大正八年一月二拾八日午前参時三捨八分 (1919年1月28日午前3時38分)
右証明ス 大正八年一月二捨八日 △△病院医長〇〇〇
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また、流行性感冒に対して<医学><歴史><知識>-30のいずれかの成功で、以下の情報を知っている。
□流行性感冒──────────────────────────────────────────────
スペイン風邪、インフルエンザの事である。
記録上、人類初のインフルエンザのパンデミックとされ、全世界に多くの感染者と死亡者を生み出したとされている。一説によればこのスペイン風邪の大流行により第一次世界大戦終結が早まったと言われている。
日本で感染、流行が始まったのは1918年、大正7年の10月。
当時余りの感染者の数に鉱山がこぞって回らなくなる、とある病院では医師や看護婦が全滅したために患者の入院を断ったという事態に陥ったという。
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寝室
埃一つなく美しく整えられた寝室である。クイーンサイズのベットと、その側には年季の入ったサイドテーブルがある。
しかし、ベットの布団はこんもりと盛り上がっており、夥しい血で濡れていた。中に何かがあるのだろうことが見て取れる。
探索者が布団を捲った場合、以下の描写を読み上げる。
”…そこには血という血をぶちまけた、女性の死体が眠っていた。
皮膚、内蔵、筋肉がずたずたに混ぜられた腹部。そこに突き刺さっている、切れ味の悪そうな食用のナイフ。
そして、砕かれた頭蓋が目に入る。脳漿と血液と脳みそ。血管と神経が無造作に枕に散らばっている。
手には血のこびりついた金槌が力強く握られていた。
この壮絶な死体を見た探索者は1d3/1d6+1の正気度喪失が発生する。
死体に<医学>成功で以下の事が分かる。
□女性の死体──────────────────────────────────────────────
‣亡くなってからそう時間は経っていない。
‣死因は脳挫傷。腹部の傷で死ねなかったから、金槌を持ったのでは?と推測できる。
‣年頃は50前半。上品で質のいい着物に身を包んでいる。
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また<精神分析>もしくは<アイデア>成功で残った表情から彼女が発狂状態であったのではないかと推測できる。彼女は確かに「自殺」したのだろう。
何回も何回も何回も、凄まじい苦しみと痛みがあっただろうに、それでも彼女は死を求めた。そう至る精神だったのだという事を理解する。
<目星>成功か、サイドテーブルを見ると言った提案でサイドテーブルの上に日記が置かれていることに気が付く。内容は以下の通り。
■奥方の日記──────────────────────────────────────────────
*あの子が例の世界風邪に罹ってしまいました。目の前が真っ暗になって、立っていることも辛くなりました。あぁ、どうしてあの子なのでしょう。ようやくあの子の花嫁姿を見ることが出来たというのに。
年老いた主人と私ではもう子は出来ません。この家はどうなってしまうのでしょう。
*主人があの子を助けるために、ご先祖様の妖術の書物を片っ端から読みふける様になりました。どれもこれも眉唾物ばかりと思っていましたが、私も自然と、それを手伝っていました。だって、あの子に死んでほしくありません。病院に追い返されてしまった以上、こんなものに縋るしかありません。
*私は間違っていました。私は間違っていました。夫を止めるべきでした。愛する人を止めるべきでした。どうしてこんなことになってしまったの。私は、私は私は私はこんなことを望んでいませんでした。
あの子が生きた最後の1日を永遠に繰り返すなんて。私は貴方とあの子と家族3人で生きて居たかったのに。ずっと、ずっと。
*もう忘れてしまいましょう。忘れましょう。これは悪い夢。忘れて、忘れて忘れて忘れて忘れて
もう、もう、何回目の1月27日なのかもわかりません。あの子も、あの子も狂いはててしまう。
狂い果て、毎日死の淵に立たされるあの子の苦しみなど。そんなものなど
あぁ、でも
*あの子を殺してあげ無きゃいけない でも、そんなことできない。弱い母を、どうか赦して
愛しているのに、愛しているのにこんな事しかできないの。愛しい娘、もうすべて忘れてしまいなさい
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読み終えると、最後のページにメモの切れ端が残っているのが分かる。≪記憶を曇らせる≫と記された呪文であり、 一定の記憶を消してしまうような効果がある、とメモには書かれている。
この呪文の習得は想定していないが、探索者が強く望むのであればEDU*1ロールに成功で習得した事にしても良い。またこのメモは持ち出す事は出来ても、現実へ持ち越すことは不可能である。
プライベートルーム
調度品などはなく、机や本棚、クローゼット、ベットなど、必要な家具だけが置かれたシンプルな部屋。
<目星>成功で何もかもが美しい、当時のままの部屋の中でやけに古臭い便せんを一つ見つける。そっと振れないと朽ちてしまいそうなほどで、これだけ時間が進んでいるかのような劣化具合だ。
中には当主からのメッセージが書かれたもの、呪文が書かれた便せんの2枚が入っている。
■父からの手紙────────────────────────────────────────────
*要 いつかきっと治療法が見つかるだろう
そうなったらきっと お前を救ってくれる人が現れる 絶対に
おまえが 遙かなる未来で 笑顔で生きて 生きてくれればいい
おまえはどうかしあわせになって
未来で生きてくれ 愛している 誰よりも──────────────────────────────────────────────────────
■チクタクマンの招来/退散─────────────────────────────────────
SANコスト1d6とMP1d4で可能。
**召喚時、さらに8人の命と[空間の核]となる者を差し出すことで「捻じれ帯の空間」を作り出すことができる。
術者の望む時間を永遠に繰り返すことができる忌術。チクタクマンが退散させられるまで、空間は同じ時間を刻み続ける。寸分たがわぬ歯車の様に。
[空間の核]となる者は、チクタクマンの本体に捻じれ帯で繋ぎとめられる。その者は「捻じれ帯の空間」が健在である限り生を保証される。
しかしチクタクマンの退散時、本体と「空間の核]となる者を切り離さなければ退散に巻き込まれることになり、[空間の核]となる者は安らかな終焉を迎えるだろう。切り離した場合。[空間の核]となったものは現世に帰還する。
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▼KP向け補足
このシナリオのチクタクマンは亜種として捉えている為、本来のチクタクマンの退散には役に立ちません。あくまでこのシナリオの為の呪文です。
また便せんが古びているのは1月27日に含まれていない父のもので在るためです。
<聞き耳>に成功、もしくはベットを調べるといった行動でかちこち、という音がベットの下に隠されていた扉から聞こえてくるのが分かる。
ベットをどけ、地下収納のような扉を開けると、真っ暗な空間が広がっている。探索者はこの暗闇の向こうに惹かれるものを感じる。
その扉の向こうに進めば、探索者はふわりとした無重力感を味わいながら、そっと地下に降ることができる。
04.久世要の想い
暗闇の中を緩やかに降下している時、探索者の脳裏にちかちかと見知らぬ風景と、誰かの泣き声が聞こえてくる。
”赦してください
赦してください
私は死にたいのです
死んだっていいじゃないですか
死んだっていいじゃないですか
ほら、貴方だっていつかは死にます
私は恐れることは、有りません
私は未練を残す事など、ありません
お逝きなさいな
お逝きなさいな
いいよ、とただ一言だけで良いのです
どうか赦してくださいませ
私を殺してください
私は死にたいのです
お逝きなさいなと笑っておくって下さらないのですか
………
ああ
私は何故このような場所に居るのでしたっけ
私は何故ここで眠っているのでしたっけ
思い出せません
思い出せません
ここには何もありません
ここには私しかありません
さびしい
ここはとてもさびしいですね
”
その声が終わると同時に、探索者は意識を取り戻す。
核の間
探索者は気が付くと小さな空間に降り立っていた。
そこには、7人の男女と、1人の老年の骸が転がっている。8人という、メビウスの帯と同じ数字記号を表す数だ。風化しきった死体たちは「1月27日のサイクルに含まれぬもの」だとわかる。
そしてその空間の中央にはかちかちと、絶えず鳴り続ける無数の歯車が取り付けられたからくり。そしてやんわりと光る、捻じれた帯で一番大きな歯車に繋がれた一人の少女の姿がある。少女はからくりに腰掛けたまま項垂れていた。
チクタクマンの化身と、哀しい儀式の痕跡を目撃した探索者は、1d3/1d8の正気度喪失が発生する。
少女に対し<医学>成功すると彼女はインフルエンザを発症しているだろうことが分かる。今は意識はなく、ひゅーひゅーとか細い息だ。
しかし現代の医療知識を持つ者であれば、高い可能性ではないにしろ、この状況に救いを見出せる。急いで然るべき施設へ運び込み延命治療を行えばあるいは生き永らえさせることも可能だろう、と感じる。
<目星>に成功すると、要とからくりを繋いでいる捻じれた帯は布製で、簡単に断ち切れそうだと感じる。
また老年の遺体が使用人の殺害に使用したのか、大きなナイフを握っている事に気が付く事が出来る。このナイフを用いれば帯を断ち切る事が出来る。
探索を一通り終えると、要が目を覚ます。意識は朦朧としているが、少しだけ会話することができる。
◇要の言葉
「……だ、れ?おいしゃさま…?」
「わたし、ずぅっと、ここにいる…分からないけど…ここに…」
「どうか、助けて、救って……」
会話を終えると少女は気だるげに腕を上げて、探索者に手を伸ばしてみようとする。しかし途中で力が抜けたのか、腕はそのまま下がって行くだろう。彼女は限界の淵に立っていることは誰の目を見ても明らかである。
◆KP向け:クライマックスについて
探索者が帰るには、このチクタクマンの退散が必要不可欠です。そして、それを行う時、久世 要の未来が決まります。
彼女は1月27日を繰り返し続け、死の直前を繰り返し続けました。今は確かに記憶は雲っていますが、今後もそうだとは限りません。記憶を取り戻したら、彼女が永久的狂気に陥る可能性もあります。
しかし辛い記憶は封じられ、一方で暗闇の中で微睡み続けた彼女は開放を望み、しあわせを求めたでしょう。
奥方が望んだように、彼女を殺すのか、当主が望んだように、彼女を生かすのか。
探索者は自身の物差しの上で彼女をどうするのか決めることになります。これはなにが幸せになるのか、自分はどうしたら救われるのか、それを考える余裕は久世要には残っていない為です。
この選択に正解も間違いもありません。KPは状況によって上記の事をPLに伝えながらクライマックスを演出してください。
05.久世要を生かす
久世要を生かすことを選択し、行動した場合、以下のように物語は進む。
探索者がそう望み、彼女を引き寄せナイフをあてがえば…いともたやすく帯は絶ち切れて、霧散した。
彼女は震える手を叱咤して、縋るように探索者の服を掴む。
がたがた、がたがたと。核となる歯車を失ったからくりは、不細工な音を立てて動作不良を起こしていく。
ゆっくりと瓦解し、崩れ、歯車は何処とも知れぬ時間の果てへを目指して上って行った。そうして遥か彼方の1月27日の帯は途切れる。
そしてまた探索者の意識もそこで闇に飲まれた。
ふと気が付けば、そこは館の目の前だ。傍らには高熱に苦しむ久世要の姿がある。
「助ける」と決めた探索者達ならすぐに病院に向かう事だろう。
それから数日後のこと。探索者達の元に一通の手紙が届く。手紙の主は、探偵から今回の依頼主からのようだと告げられる。
その封筒には、孤児院の連絡先、多額の小切手などがあった。同封されていたメッセージカードには「久世要が現代に生きる為に使ってほしい」と綴られている。
その手紙を最後に、依頼主とはぱたりと連絡が取れなくなってしまう……依頼主は何者だったのだろうか。それを探索者が知るすべはない。
小さな疑問はあれど、探索者は達は久世要の病室に向かう。……その扉を開けた時、まだ弱弱しくも、輝く様な笑顔を浮かべた要がそこに居た。
目を覚ました彼女は見慣れぬ場所、言語の変化に戸惑いながらもこう告げる。
「私、これだけは覚えています」
「──悪夢の中で、貴方たちが助けに来てくれたこと」
一輪の 牡丹かがやく 病間かな
END:百年越しの開花
生還報酬
‣帰還 1d6
‣久世要を生かした 1d6 +小切手
06.久世要を眠らせた
久世要を眠らせる事を選択し、呪文を行使した場合、以下のように進む。
「…ぁ……」
要は目を見開いて、2人を見つめる。……そして静かに微笑む。
「…おねがい」
「私が消えるまで、手を握っていてください」
頼りない手を探索者に差し出す。応えれば、瞳を閉じて呟く。
「ありがとう…あぁ、しあわせ」
「ひとりじゃないって、しあわせね」
歯車の音が止まり、瓦解し、崩れ、歯車は何処とも知れぬ時間の果てへと登っていく。その時、久世要も帯に引かれるようにふわりと宙に浮き、同様に崩れていく。
永遠はここで途切れ、彼女もまた還るのだ。
彼女は崩れながら最後まで、探索者の手を放さない。孤独でないことを確かめるように、力強く握られたまま。
牡丹散りて 打ち重なりぬ 二三片
探索者の手には、はらり、はらりと崩れていく彼女の手のひらの熱と感触が残る。やがて全てが崩れた瞬間、眩い光に包まれ、探索者は達は思い切り目をつむるだろう。
ふと目を開けるとそこは真っ暗な廃墟の中だった。いつの間にか外は夜になっていたらしい。
白昼夢を見ていたかのような感覚を覚える。しかし、過ぎ去った1月27日は確かにそこにあった事を証明するかのように、手のひらには牡丹の花びらが一枚残っていた。
小さく息を吐き出した時、探索者達の携帯に着信が鳴る。その着信を皮切りに、探索者達はまた日常へ戻っていくことになるだろう。
それから数日後のこと。報告を受けた探偵は約束通り探索者に報酬を渡すだろう。そして、依頼人から妙なメッセージが届いていることを聞く。その内容はこういったものだ。
『終わらせてくれてありがとう。彼女はきっと幸せだ』
END:崩れ牡丹
生還報酬
‣帰還 1d6
‣久世要を眠らせた 1d6
07.その他
題材を頂いて書き上げたものです。最早名残がNPCの名前程度にしか残っていませんが。
題材をくださったセッションメンバーに特別な感謝を申し上げます。
引用
05.「一輪の 牡丹かがやく 病間かな」正岡子規
06.「牡丹散りて 打ち重なりぬ 二三片」与謝蕪村