水煙と楽園のオフィ―リア

0.シナリオ概要

舞台:現代日本 形式:クローズド
難易度:D 所要時間:4~5時間 PL推奨人数:2人程
推奨技能
★★★<目星><図書館>
☆☆★<水泳>※1<芸術:絵画系>※2
※1…DEX*5で代用可能 ※2…知識で代用可能
 
あらすじ
 探索者は古い友人であるNPC、織原慧の屋敷へ招かれる。しかし、庭を案内するという彼に誘われ、探索者達は水煙に覆われた美しい世界へ落とされてしまう。一度「楽園」に捉われれば脱出することはできない。閉じ込められた世界の中で探索していくシンプルな短編クローズド。
 
背景
 織原慧はかつて富を築いた魔術師の血と屋敷、そして魔術師のアーティファクトが受け継がれている一家の人間である。しかし慧の父親は正義感の強い実直な人で、悍ましきアーティファクトをこの世からなくすことに尽力していた。慧が高校生の頃、全て片が付くまで家族を田舎に移住させ、自分は一人織原家の屋敷に残ったのである。
 そのアーティファクトの中に、かつて水死体しか愛せない異常性癖を持った狂人が、愛する者達を永遠に愛でるための「楽園」を閉じ込められたシーシャ瓶があった。織原父は1年前、被害者の魂を開放する為、シーシャ瓶から「楽園」を屋敷の庭に開放する。そうして「楽園」に乗り込む事は可能になったが、織原父は運悪く返り討ちにあってしまい、そこで力尽きてしまった。
 織原慧は屋敷に戻った時父が帰らぬ人になった事を知り、「楽園」をどうにかするために行動する。車椅子で生活をする自分ではどうあっても役不足となってしまう為、織原慧はかつての友人である探索者に助けを求めた。
 
主要NPC
〇織原 慧(オリハラ ケイ) 職業:翻訳家 年齢:24
STR:12 DEX:6 INT:9
CON:8 APP:16 POW:17
SIZ:14 EDU:16
イデア: 45 幸 運: 85 知 識:80  DB+1d4
SAN:23
――――――――――――
その他言語:英語(70) その他言語:ドイツ語(76) その他言語:フランス語(50)
聞き耳(50) 精神分析(71) クトゥルフ神話(25)
――――――――――――
探索者とは数年越しに再開する、古い友人である。おっとりとしていて、少々世間知らずなお坊ちゃん。
身体が元より強くはなく、学生時代から車椅子での生活している。
昔から頭が硬く、何に対しても真面目で実直な性格だった。そしてド級の天然で、度々周りを困惑させてた。
高校時代に突然不登校になり、そのまま遠くの学校へと転校してしまった。
▼以下KP用
 自分が魔術師の血を引いている事、家に残されたAFについては「なんとなく」知っている。きちんと伝えられる前に父が亡くなってしまったために完全な理解はしていない。元より真面目だった彼はAFを管理することが己の役目だと思い込み、正気度を削りながらもそれに固執する。
 探索者を楽園に落とすことについて、罪悪感は感じるかもしれないが躊躇をすることはない。織原慧にとってもっとも優先すべきは管理に他ならないためである。
 きちんと頼めば素直に行ってくれる探索者も居るかもしれない。だが彼は今までまともな人付き合いをしてこなかったために、頼み方が分からずこのような行動にでた。
 
[エネミー]
水死体:楽園におけるオフィーリア
STR:8 DEX:2 INT:2
CON:5  POW:9 SIZ:20
耐久力:13 DB+1d4
――――――――――――
引っ掻く:30% 1d3
噛みつく:25% 1d4+1
――――――――――――
動く水死体をみた探索者は1/1d6+1
通常の水死体を目にした後であれば1/1d3

1.導入

 なんてことのないある日の事。探索者の元に一通の手紙が届く。それは高校時代に別れた「織原慧」からの手紙だ。中には便せんと地図がある。
■便箋────────────────────────────
お久しぶりです。僕の事を覚えてくれているかな。
僕は今までずっと父方の祖母の家にお世話になっていたのだけれど、就職したついでにかつての家に戻って来たんだ。
今は僕一人で住んでるんだけど、如何せん馬鹿みたいに広い家だ。一人だと寂しくてね。
それと、最近ちょっと頭を悩ませられている事もあって。ちょっと心細い気持ちでいるんだ。
だから暇があったら一度遊びに来てくれるとうれしいな。僕はいつでも構わないから。
織原慧
───────────────────────────────
 
地図:高級住宅街の端に星マークがある。また地図には織原の連絡先がメモしてある。
 探索者からの連絡があれば織原は喜んで応答し、探索者達と予定をすり合わせてくれる。このタイミングでは織原はいかなる質問にも答えることはない。「お話は当日のお楽しみにしようよ」と言うのみである。
 

2.織原慧の家

 織原の家に向かう当日。その日は快晴である。
 彼の自宅は高級住宅街の隅にぽつんと建っている。門の金具は錆び壁には蔦が蔓延り、寂れた雰囲気を醸し出している。しかし門から自宅の玄関までの空間の雑草は刈り取られており、落ち葉も隅に掃いてある。最低限の手入れはされているようで、一応人の住んでいる家には見えるだろう。
 チャイムを鳴らせば織原は人懐こい笑顔を浮かべて探索者の元へやってくる。鈍くさい彼は時折何もない所で車椅子を転ばせたり、お茶を注ごうとする手も震えていて頼りない姿を見せるだろう。織原は昔からこんな調子であることを探索者は知っている。
 彼と再会した時、探索者は彼から甘いフレーバーの混じった煙草の匂いを感じる。
<アイデア>/彼は元々体が弱く、煙草などは苦手としていたことを思い出す。
<目星>/彼の顔色は芳しくない事。どこか蒼白めいた表情からは心労を感じる。
 織原は立ち話をするのもなんだから、取りあえずは中庭へどうぞ。と探索者達を案内する。
 
中庭
 彼に案内された庭は豪華絢爛…とは言い難い。庭自体はかなり広さがあるようだが、手入れが行き届いてないのか緑が不格好に生い茂るばかりだ。
 辛うじて中庭に小さな植木鉢に咲いた花を通路に並べてあるくらいの、規模に反して相当慎ましい様子が見て取れる。
 案内された中庭の一角には稚拙なセッティングのガーデンテーブル、イス、パラソル。テーブルの上には湯気の立つティーポットとカップカップケーキなんかがちょこんと乗っている。
<目星>/庭の隅に、金属筒やそれに繋いであるチューブなどが綺麗にまとめられているのを見つけることができる。
 腰を落ちつかせたところで織原慧は再会の喜びを口にしながらお茶を入れる。
◇織原との会話
「翻訳の仕事をもらいながらここで一人暮らしだよ」
「一人暮らしは大変だけど…体調がいい時は車椅子もいらないくらいだから、そう深刻ではないかな」
・金属筒とチューブについて
「あれはシーシャの道具の一部だよ。水タバコって聞いたことないかな?」
 ※シーシャを知らないPL用:水タバコとは水と炭を使って色んな味のついた煙を楽しめる、喫煙器具の一種。フレーバー付けがされたタバコの葉に炭を載せて熱し、そこから出た煙をガラス瓶の中の水を通して吸うもの。フレーバーには果物からスパイス、花、コーヒー、ガムなど多くの種類がある。 
 
「あれは…1年前に亡くなった父の持ち物でね」
「瓶もあるんだけど、困ったことに僕じゃあ拾いに行けない場所にある」
・煙草の匂いについて
「うん?僕は吸ってはいないよ。……あぁ、裏庭のあれのせいかな。僕もう匂いに慣れちゃってるから気付かなかったよ」
・悩みごとについて
「実は困ったことが起きていてね。僕じゃあどうしようもできない。僕だけはどうしても解決させることができないんだ」
「ここの裏庭に、「楽園」への入り口が出来たって言ったら信じてくれる?」
 
 ある程度会話をした後、もしくは探索者に悩み事について聞かれた場合、織原は「口で説明するのは難しいから」と言いながら席を立つ。
 織原の後に続くと、一行は裏庭に出る。
 
裏庭
 そこは中庭とは打って変わって、様々な色彩の花に包まれた空間である。色とりどりの咲き乱れる花で溢れかえっていた。……しかし、庭には霧のようなものが発生しており、その全貌を見通すことは出来ない。そこかしこを白いもやが包んでおり、視界を不明瞭にさせる。
 この白いもやからは織原慧から感じた甘いフレーバーの煙草の匂いを強く感じる。織原慧はこれの事を水煙と呼ぶ。この水煙はアーティファクトが生み出したものだ。織原はそんな水煙の中をどんどんと進んで行き、以下の様に語る。
「凄いでしょう、この花。……楽園が庭に繋がった影響かな」
「美しいけど…これらは人の身体には良くないものだ。今はまだこの庭にしか影響してないけれど、このままにはしておけない」
「どうにかしたいのだけど、僕じゃどうする事も出来ない」
「だから、お願い。君たちが終わらせて……この楽園を」
 それだけ言い切ると、織原慧の姿は水煙の飲まれ完全に消える。その瞬間ぐん、と思い切り体が引っ張られ、バランスを崩した探索者はよろけて転倒する。…転倒した先に在るべき地面がなくなっており、探索者は真っ逆さまに下へ落下していく。そこで一行の意識は暗転する。
 

3.楽園:水の上

 ふと、探索者は妙な浮遊感を覚えながら目を覚ます。そこは澄んだ水の上。深さは1m半程で、水底から鮮やかな色の水草が水上に顔を出し、交錯している。探索者の身体にも絡みついている。
 周囲は水煙覆われており、ぐるりと見渡してみても何も見えない。<目星>なども不可能である。
 何故か頭上だけには水煙はかかっておらず、深い藍色の空が確認できる。そこから差し込む空の藍色と陽の光が澄んだ水に反射している。突如知らない場所に誘われた探索者は0/1の正気度を喪失する。
 探索者が状況確認を終えると、近くに2匹の魚─コイとフナが近寄ってくる。2匹は水面から顔を出すと人の言葉で「だいじょうぶ?」「けがしてなぁい?」探索者に語り掛けてくる。喋る魚と邂逅した探索者は0/1の正気度喪失。
◇コイとフナの話
 2匹は非常に人懐こく、探索者の周りをくるくる楽しそうに泳いでいる。2匹からはこの場所について話を聞くことができる。
・この場所について
「ここはらくえん」「かなしいばしょ」「くるおしいばしょ」「わたしたちのぜつぼうでできてる」「こわいひとのあいでできてる」
・こわいひとについて
「こわいひとはこわいひと」「らくえんのいちばんおくにいる」「うごけないからおくにずっといる」
・楽園の奥について
「ここをおよいでくとはしがある」「はしをまっすぐすすむと もりのみち」「もりのみち からひだりにいけば つちといわのみち。みぎにいけば だれかのいえ にいける」「つちといわのみち から らくえんのおく へいける」「もちのみち までいっしょにいける。あんないしてあげる」
・コイとフナ自身について
「わたしたちはこわいひとにつかまってここにいる」「あいされてとじこめられてここにいる」「かえりたいけどかえれない」「かえりたいねぇ」「かえりたいなぁ」
・ここから出る方法について
「ここからはでれない」「かえれない」「でもあなたたちなら?あるいは?」「こわいひとにあえば?」「こわいひとはこのらくえんのちゅうしん」「このらくえんのしんぞう」「こわいひとをどうにかすれば」「どうにかなるかも?」
 
 話を聞き終えるとコイとフナは進んで「あんないする?むこうにはしある」と言ってくる。2匹の案内についていくには<水泳>を振る。失敗してもついていくことはできるが、水を飲んでしまったり足をつってしまったりでHPを-1する。
 先導する2匹について行けば、やがて桟橋にたどり着く事が出来る。少し古ぼけた細く頼りない橋だが、問題なく上がることができる。橋の先は水煙に覆われていてどうなっているのか確認することはできない。
 この橋を進めもりのみちに移動となる。
 

4.もりのみち

 橋を進んでいくとやがて、木々が密集している場所に出る。鬱蒼としているが、水から突き出した木々や植物はどれも青々しく、生命力にみなぎっている。またここも水煙で覆われているが、最初に目が覚めた水の上、より薄まっておりあたりを見渡すことができる。橋の先はやがて右と左の二手に分かれてる。
 <目星>/橋から少し離れた木の陰に、黄土色の塊があることに気が付く。橋の上からでは仔細には分からないが、<水泳>で接近可能である。
 コイとフナにあれは何かと聞いた場合、沈黙する。そこにある黄土色の塊はまさしくコイが人間だったころの身体であり、おぞましい己の姿について言及することが出来ないのである。
 
 <水泳>で接近した場合、それはおよそ2倍に膨らんだ水死体であることがわかる。全身が膨張し腐っているだけではなく、そこら中に切り傷が付けられており、痛ましく悍ましい姿をしてぷかぷかと浮いている。これを見た探索者は1/1d4+1
  <目星>/死体が瓶を抱えていることが分かる。手に取ってみると、装飾がほどこされた美しい瓶であることが分かる。蓋などは無く、中身は空のようだ。大きさは大体60センチほどである。
 <アイデア>/この瓶はシーシャ使用するものではないかと推測することができる。
 コイとフナに瓶を見せた場合、「それはらくえんのいれものだったもの」と答えてくれる。コイとフナはこの瓶に関しては少なからず嫌悪の感情を持っている。
 
 瓶を確保し戻ってくると、水死体を見た探索者にコイが謝罪をする。「みにくいわたし、きもちわるかったよね。ごめんね」と少し落ち込み気味である。コイは元々人であり、気が付いたらここに居た被害者の精神体、魂のようなものである。人であったことは分かっているが、自分がこのような姿になったいきさつは知らない。フナにも話を聞くと、「わたしのみにくいわたしは つちといわのみち にあるとおもうよ」と答えるだろう。
 話を聞き終え、橋の進んでいくならばコイとフナが尾ひれをぱちゃぱちゃ揺らしながら「きをつけてね」と探索者を見送る。
 
右手に進めばだれかのいえ、左手に進めばつちといわのみちにたどり着く。
 
だれかのいえから戻って来た後の処理
 だれかのいえから探索者が戻って来た時に、探索者がコイ、フナに刃を使おうとすれば2匹は怯える。これは水死体だったころ、狂人が刃をもって行動を封じられていたからである。だが「還ることができる」「還してあげる」と伝えた場合、2匹は喜んで寄ってくる。
 →還す場合
 傷口からシャボン玉のような透明な光の粒があふれ出す。またコイをもりのみちで還す場合、少し離れたところにある水死体も共に光の粒となって崩れていく。それは一度美しい女性の姿をかたどり、探索者に微笑みかけ、やがて空へと昇っていく。
 →破壊する場合
 傷口から赤黒いヒビが、全体に広がっていく。やがてそれは全身に広がり、ガラスの割れるような音と共に砕け散る。破壊したのがコイの方であった場合は、少し離れた所にある死体も共に砕け散る。破壊し終わると、もう一匹は即座に探索者の元から離れ、どこかへと泳いで行ってしまう。以後。コイとフナを見かけることはできない。
 

5.だれかのいえ

 もりのみちから橋を右にすすむと、やがて土が盛り上がっている場所へとたどり着く。そこにはぼろぼろに朽ち果てた廃屋のようなものが建っている。戸はすでに腐敗し外れており、中に入る事には何の問題もない。水煙は相変わらず周囲を覆っている。 この場所は家の中にのみ情報がある。
 探索者が中に入ると、荒れ果てている様子が見て取れるだろう。所々で床も腐っており、一歩踏みしめるごとにギシギシと足場が沈みこむ。家の中には大きな本棚。書斎用の机。ガラクタが雑多に置かれた場所がある。
 
大きな本棚
<図書館>/深緑の洋書、日記を見つけることができる。
 深緑の洋書:【オフィーリアのシーシャ】【鎮魂の刃】の項目がある。
AF【オフィーリアのシーシャ】─────────────────
 このシーシャのボトルの中は小さな異世界のようなものだ。そこにはオフィーリア……水死体を愛した狂人と、狂人に愛された水死体たちが共に閉じ込められている。
 狂人はこのボトルの中の異世界を楽園と呼んだ。永久不滅の愛の園だと。確かにこのボトルの中に居ればその魂は死肉に縛られ、還ることも、壊されることもない。楽園の心臓である狂人の魂でさえ、半永久的にそこに在ることを保証されている。
 その代わり、狂人にが制約がある。ボトルを護ってもらう代わりに、持ち主の求めに応じて、その力をの一部を差し出さねばならないというものだ。かつてこのシーシャの管理者であった魔女は魔法を使う時、魔力をこのシーシャから得ていた。
 シーシャを使用すれば藻と苔と水辺の花の香りの水煙が肺腑を満たす。そして水煙には魔力や魂の一部が込められており、その力を使って魔術を行使することができるという。
───────────────────────────────
AF【魂魄の刃】────────────────────────
ダメージ 1d3 対象が生ける屍である場合固定ダメージ+1
 使用する場合、こぶしやナイフなどの技能は必要ない。接触範囲に居るエネミーに対して常に自動成功となる。
 対象が生ける屍である場合、その屍の行動を束縛し、操る効果がある。切り傷を付ければ10Rの間、屍の動きを完全に封じることができる。その間は何をしても抵抗してくることはない。耐久力を0にした場合、以後その屍が動くことはない。
 対象が魂、霊魂の場合、その魂を還すことも、破壊することも可能。どちらの効果も1回の使用につき1d3ポイントのMPと1のSANをコストとする必要がある。この能力を肉の身体を持つ者に使用したい場合、××に刃を突き立てなければならない。
───────────────────────────────
 ▼KP向け補足 魔力=MP、魂の欠片=POWです。この辺りの説明は必須ではない為省いていますが、PLが望むなら補足として付け加えても問題ありません。また××は心臓の事です。掠れていて読めない様になっています
 
 日記:ぼろぼろになっていて誰のものか分からない。めぼしい内容は以下の通り。
■日記────────────────────────────
 ようやくあの呪物溢れるあの家から離れられたというのに、あの悍ましい本が、道具が今もなお手付かずでいると思うと、落ち着こうにも落ち着けない。結局私はこの家に戻ってきてしまった。
-----------------------------------
 私はこの社会では生き難い。なれば、この家に戻って来たと言うのも必然なのだろう。残りの人生すべて、この悍ましいもの…アーティファクトの管理に捧げよう。
-----------------------------------
 先祖かかつて狂人と楽園を閉じ込めたというシーシャ型のアーティファクト。便利であるのかもしれない。しかしその実態は悍ましいものだ。ロクでもない事には変わりない。これもいつか、どうにかできるといいのだが。
-----------------------------------
 やはり放っては置けない。私は楽園に臨もうと思う。今もなお犠牲者の魂がここで苦しんでいると思うと……。念のために、息子は母に預けることにした。愛する息子の為にも、帰って来なければなるまい。
 すまない、慧。少しだけ待っていてくれ。
-----------------------------------
 このまま私は 息子にも もう 会えない 私一人ではやはり、かの狂人を捉えておくことしかできない
私はこの楽園を あの狂った男の魂を 憐れな彼女たちの 魂を
───────────────────────────────
 この日記は読むと霧散して消えてしまう。以後読むことはできない。
この日記は実際に楽園に持ち込まれたものではなく、織原慧の父の記憶の断片が形になったものです。後に誰か来た時の為に残されたものです。
 
<目星>/古ぼけたメモを見つけることができる。
■メモ────────────────────────────
 魚たちはこころ。オフィーリア達の、人であろうとするこころ。
 こころとは魂の一部。
 肉体のどこに、魂はあるのだろう
───────────────────────────────
 
ラクタ置き場
<目星>/額縁、鉄製のケースを見つけることができる。
額縁:淡い色合いで水辺に横たわる女性の絵が描かれている絵がいれられている。
<芸術:絵画系>/その絵はハムレットの登場人物、オフィーリアが描かれたものであること。そして、通常のオフィーリアと大きく違う点が2つ在ることが分かる。
 一つは胸に短剣が突き刺さっている事。そしても一つは、オフィーリアは穏やかな笑みを浮かべているという点である。
▼机のメモ、額縁は魂の場所のヒントです。魚たちを刺しても、胸を刺しても魂を刺しても【鎮魂の刃】の効果が発動します。
 
鉄製のケース:中には装飾の施された短剣が1本入っている。このケースには2本の短剣が収納できそうだが、今は1本しかない。<鎮魂の刃>の知識を得た探索者はこれこそがそのAFだと気づいていい。
 

6.つちといわのみち

 もりのみちから左に進むとたどり着く。細い橋の上を進んでいくとどんどんと水深が浅くなり、やがて足首程の深さになったところで橋は終わる。そこはパッと見て川の様になっている。道は奥へと続いており、そこから水煙と水がささやかに流れてきていることが分かるだろう。水煙の合間から斜陽が差し込んで「つちといわのみち」を照らしている。その風景も実に現実味のない美しさだろう。
 ここでは探索者の行った行動により以下の様に分岐する。
 
→フナを還していない場合
<目星>/岩陰に黄土色の塊が2つ転がっている事に気がつく。
 近付けばそれは2つの水死体であることが分かる。奥に転がっている方は、全身切り傷だらけでピクリとも動かない。手に何かを握っているようだ。手前に居る方は、動かない方を庇うようにして探索者を睨みつけている。動いている水死体はエネミー、水死体:楽園のオフィーリアである。動く水死体をみた探索者は2/1d4+2、通常の水死体を目にした後であれば1/1d3+1の正気度を失う。ちなみに動いている水死体に切り傷はない。
 探索者が動かない方に近寄ろうとすれば腕を振り回して威嚇してくる。強行突破しようとしないかぎり襲ってはこない。
 動く水死体を還すか、壊す場合はもりのみちと同様の処理になる。もし壊しも還しもせず、耐久力を0にした場合、水死体は倒れて動かなくなる。そして、胸のある場所がぼやっと光り、そこからメダカが生まれる。何もしなければメダカは川の流れにのって、もりのみちを向かうだろう。このメダカ出現イベントはどの分岐でも同じだが、フナをどうしたかによってメダカの対応が代わる。
◇メダカと会話する場合
「あなたたちだれー?こわいひとのなかまなのー?」「わたしたちをまたらくえんといっしょにとじこめるのー?そんなのやだー!」「これいじょうわたしたちにひどいことしないでー!」と言ってくる。きちんと状況を説明すれば納得し、「みんなをかえしてほしいのー!」と頼んでくる。
 
→フナを還している場合
<目星>/岩陰に黄土色の塊が1つ転がっている事に気がつく。
 それは紛れもなく水死体であるが、立ち上がって蠢いている。緩慢ではあるが確かに動いている。動く水死体をみた探索者は2/1d4+2、通常の水死体を目にした後であれば1/1d3+1の正気度を失う。ちなみに動いている水死体に切り傷はない。
 その水死体はただ呆然と空を見上げている。探索者に気がついても、直ぐに空に目線を戻す。その姿は置いてかれてしまった子供のような寂しさを感じさせるだろう。見上げた先には、フナが還っていた時の光がまだ見えるかもしれない。
 また岩陰にはきらりと光るものがあるが、水死体が邪魔をしていて進めそうにない。
◇メダカと会話する場合
「いっちゃった、あのこ、かえってっちゃった」「わたしもかえりたい、かえりたいよう」「おいてかないで」と悲しそうな声で話す。探索者が還した事を知れば「いっしょにかえりたい」と懇願する。
 
→フナを破壊した場合
<目星>/岩陰に黄土色の塊が1つ転がっている事に気がつく。
 それは紛れもなく水死体であるが、立ち上がって蠢いている。緩慢ではあるが確かに動いている。声にならない声を上げながら、呻いている。頭であろう場所についている、2つの窪みからだらだらと赤黒いものを垂れ流し、空に、地面に向かって吠えたてている。泣き叫ぶ動く水死体をみた探索者は2/1d4+3、通常の水死体を目にした後であれば1/1d3+2の正気度を失う。動いている水死体に切り傷はないが、顔面や体は赤黒く生臭い。
 探索者に気がつくと、咆哮を上げながら襲い掛かってくる。
 水死体の向こう側には、きらりと光るものが一つ落ちている。倒しきればこれをとることができる。
◇メダカと会話する場合
「あのここわれちゃった」「こわれちゃった」「こわれちゃった」「こわれちゃった」「こわれちゃった」「なんでこわしたの?」と恨めしそうに話す。メダカは探索者に懇願することはない。ただ探索者が見えなくなるまで、メダカはじっと探索者を見つめ続ける。
 
 奥に転がっている水死体はフナの元の姿である。おくからここに逃げてきたのだが、メダカとなる彼女を庇って狂人から何度も刃で傷を受けてHPが0になったため、もう動けないでいる。メダカはそんな彼女に恩義を感じている為、このような分岐となる。
 フナの元の姿の水死体が握っているものはシーシャの蓋である。還す、壊す等でフナの元の姿である水死体が無い場合、その場にポツンと落ちている
 一般的な瓶の蓋のようだが、握るとじわりと妙な魔力を感じることができる。ボトルの中に楽園を封じ込めて置くために必要な、AFの一部分である。どこまで描写し、蓋に言及するかはKP次第である。END分岐に関わる物の為、持っているかいないかはきちんと確認する事。
 道の奥へすすむと、楽園の最深部であるおくへ移動できる。
 

7.おく

 進んでいくとやがて水源のような場所へたどり着く。しかし、この場所は異様に濃い水煙が辺りを覆っており見通すことは叶わない。辛うじて目の前に泉があるのが分かる程度である。
 水源の水は透き通っている。だが、覗いてもただただ深い闇が振りがっているだけで水底を確認することは叶わない。そこの覗けばまるで深淵を覗いているような錯覚に陥るだろう。
→コイやフナを還している場合
 泉に光の粒が落ちてくる。それはコイやフナを還した時と同じ光だ。それは転々と奥へと続いていく。光の粒は<水泳>技能で問題なく進むことができる。
→還していない場合
 闇雲に進むのであれば<水泳>と一緒に<目星>成功で進むべき場所が見える。失敗した場合、探索者は水底のものが見えてしまう。深い深い底には水草で体を捉われ、醜く膨張したままもがく、大量の水死体の姿。これをみた探索者は1d3/1d8の正気度判定を行う。
 
 やがて泳いでいくと、小さな小島にたどり着く。そこには青々とした草木、ささやかに場を彩る小さな花がある。そして、水煙の流れ出る中心には一人の男が座り込んでいる。その男はつろな瞳で空を見つめている。片手に何かを握りしめているようだ。
 彼こそこの楽園の中心であり、核である"狂人"である。しかし、彼は織原慧の父親の肉体に捉われ、全く身動きの出来ない状態だ。
<アイデア>/彼が織原慧に似ていることが分かる。失敗すれば、彼から邪悪な雰囲気を感じる。
<目星>/彼が鎮魂の刃をもう片方を持っていることが分かる。この彼が水死体たちの動きを封じていたのだろう。
 彼は探索者を歓迎こそしないが、特別強く拒否することもない。
 
◇狂人との会話
・彼について
「この私か?私こそこの楽園の主である。どうだ、美しいだろう?」
・織原について
「この肉体の持ち主か?忌々しい、私を取り込みここに縛り付けた男だ」
※尚、織原慧については全く知らない。
・水死体について
「オフィーリア達の事か?あぁ、美しいだろう?やはり女性はああでなくてはな…」
・瓶に戻ることについて
「その中に戻れと?…それは願ったり叶ったりだ!私は楽園がこのようにに太陽の元、青い空の下にある事など望んではいない!」
「喉をかき切ってこの忌々しい肉体から解放してくれればいい!さぁ!」
・魂を還す/壊すことについて
「この私を、か……?やめろ、私はそれを望んではいない。……貴様らに害をなすつもりなどない。このまま返してくれればそれでいい」
 狂人は探索者が敵対を見せない限りは普通に答える。また話が一通り終わったのち、「自分の喉を掻き切り、この肉体から魂を開放してくれ」と頼んでくる。KPは可能な限りこの狂人の特殊性癖をぶちまけさせ、嫌悪感を抱かせること。彼の言う通りにすることは
 

8.クライマックス

 鎮魂の刃をどう使用するかによって、エンド分岐は大きく二つに分かれる。鎮魂の刃を胸に刺せばそのままEND1へ移行する。しかし言われるがままに喉を掻き切ると、以下のイベントが発生したのち、脱出の有無、アイテムの有無でENDが分岐する。
 
男の首を掻き切る
 肉体は、途端にその役割を放棄したかのように崩れ落ちた。彼の胸元はぼんやりと光り、そこから淀んだ色のシャボン玉のような球体が現れた。それは真っ直ぐに瓶を目指す。……その瞬間だ。
「逃げなさい」
 首を掻き切られた、物言わぬはずの骸が言葉を発した。それと同時に、光は瓶の中へと納まる。……そして、楽園に轟音が響き渡った。ありとあらゆる場所に亀裂が入り、崩れ、全ては水に飲まれていく。
 楽園の中にある水という水が一気に押し寄せ、探索者は大渦に巻き込まれるように、ただただその流れに奔流される。…やがて、流れに流されるまま。暗い水の底へと押し込まれてしまった。
 
  水死体を一人でも還している場合
 ふと探索者の目の前にシャボン玉のような透明な光の粒が落ちてくる。それらは道しるべの様に。上へ上へと続いているようだ。<水泳>に+35の補正が付く。
 
  還していない場合
 頭上のはるか遠くに光が見える。それはこのつめたくて暗い場所から出る唯一の出口だと直感する。たどり着くには<水泳>ロール。
  破壊していた場合
 水底から足を掴むものがある。──それはどこか見覚えのある、切り傷だらけの水死体だ。<水泳>ロールに-20の補正が入る。
 
 脱出成功し、蓋を持っていたらEND2。脱出失敗ならばEND3。脱出に成功したが蓋を持ってこなかった場合はEND4に移行する。
 
 

END1:そして彼は追悼を果たす

 狂人の絶望が満ち甲高い悲鳴とあげながらその体は崩れていく。男が消える瞬間。彼は織原慧と似た顔で、織原慧と似た様な、人好きのする笑顔を浮かべた。
 その笑みは狂人の笑みではなく……狂人を今までこの場所に縛り続けていた、その体の本当の主のものだった。
 同時に、突如として風が吹く。風は水煙を空の彼方へと流していくのが見えるだろう。色鮮やかな美しい楽園はみるみる崩れ、朽ちて、無残な姿へと変わっていく。その風の強さに二人は探索者は思わずを瞑る。
 
 気が付くとそこは、緑の蔓延る不格好な庭であった。何処までも広がっていると錯覚させた色鮮やかな花園はどこにもない。そんな中で織原慧は風の流れていく先を見つめていた。
「君達は壊したんだね、楽園を」
「いや、正しい。魂は全て在るべき場所へ行くのだから」
 父が縫い付けていた楽園を見送りながら、織原慧は探索者に頭を下げた。
「いきなりこんな事を頼んでしまって、ごめんね。──ありがとう」
 探索者は思い出す。そう言えば彼は不器用だった、と。交友の少なかった彼は、頼み方が分からなかったのだ。探索者に無茶苦茶な案件を無理矢理押し付けた様な形になったのはそのせいである。
 素直に人を頼れない父と、不器用な頼み方しかできない息子の姿。それらを見た後、慧とどんな関係を気付いて行くのかは探索者次第である。
 
END2:そして彼は水煙越しの再会を果たす
 もがきながらも上へ上へと進んでいく。冷たい水をかきわけ、耳をつんざくオフィーリアの悲鳴と狂人の高笑いを後にして。探索者は漏れ出る光に手を伸ばす。
 気が付くとそこは、緑の蔓延る不格好な庭であった。何処までも広がっていると錯覚させた色鮮やかな花園はどこにもない。そんな中で織原慧は静かに探索者を見下ろしていた。彼は探索者の持ってきた蓋を使って瓶を閉じると、静かに微笑んだ。
「やぁ。君達の活躍ぶりはずっと見ていたよ」
「あぁ、漸く煩わしいものが片付いてくれた。君達には感謝しかない」
 織原慧は微苦笑しながら瓶を抱え、探索者が望むのであれば己の役目を話してくれる。
「僕はこれからもあれらを管理していこうと思うよ。お父さんと一緒にね」
 言いながら、織原はなんとも言えない微妙な表情を浮かべながら、シーシャを組み立てる。……庭に、花と水辺、煙の匂いが満ちていった。
 この後、織原慧から連絡が来ることはなくなる。彼と交友を続けるかどうかは、探索者次第だ。
 
END3:そしてキミは永久に愛される
 もがきながらも上へ上へと進んでいく。冷たい水をかきわけ、耳をつんざくオフィーリアの悲鳴と狂人の高笑いを後にして。探索者は漏れ出る光に手を伸ばす。……しかし、光へは届かない。あと数センチ、届かない。水の流れに翻弄され、オフィーリアに掴まれ、そしてやがて狂人に抱きしめられる。
「大丈夫、怖い事なんてなにもない」
「愛してやろう、オフィーリア」
 そして探索者の指先から体温が奪われていく。感覚が鈍っていく。体が死んでいく。溺れて命が消える瞬間。最後に感じ取ったのは、彼からの口付けだった。
 
END4:そしてキミは
 もがきながらも上へ上へと進んでいく。冷たい水をかきわけ、耳をつんざくオフィーリアの悲鳴と狂人の高笑いを後にして。探索者は漏れ出る光に手を伸ばす。
 気が付くとそこは、緑の蔓延る不格好な庭であった。何処までも広がっていると錯覚させた色鮮やかな花園はどこにもない。そんな中で織原慧は静かに探索者を見下ろしていた。
「……あぁ、これじゃあ駄目だ」
「これじゃあ、封じなおすことができない」
「もう一度、お願いね」
 織原慧は探索者の背に触れ、そっとその背を押す。そして彼は瓶の中身を逆さに傾けた。探索者の意識はそこで一度途切れる。
 
 ふと、探索者は妙な浮遊感を覚えながら目を覚ます。そこは随分と濁った水の上。深さは1m半程で、水底から鮮やかな色の水草が水上に顔を出し、交錯している。
 探索者の身体に、何か絡みついている。それは助けを求めるオフィーリアの腕。剥がれ落ちた脂肪。髄液、脳漿―。まるで壊れ物がシェイクされた後のようだ。
 貴方は蓋を探さねばならない。オフィーリアをかき分けて進みながら。
 
▼END4はLoopENDとなる。このラストに至った場合のSANチェック、探索者の生還はKPに委ねる。生還報酬は発生しない。
 
 
報酬一覧
生還 1d4+1
AF「オフィーリアのシーシャ」を完成させた クトゥルフ神話技能+1
楽園を破壊した 1d6+1
オフィーリアを解放した [解放した人数]d2
 
☆AF【オフィーリアのシーシャ】
製造年月日:不明 製造国:不明 製造者:織原家の先祖
 ボトルにを水死体を愛した狂人とその犠牲者が閉じ込められている。フレーバーの必要はなく、常に藻と苔と水辺の花の香りを楽しめる。
 このボトルには閉じ込められている魂の合計POW50*と同数値のMPを保有している。使用することによって1回につき1d3+1のMPを回復することができる。自分のPOWを超えるMPの回復は出来ない。またボトルから直接MPを引き出し使用することが可能。
 またMPを10ポイント差し出すことにより1のPOWを引き出す事も可能。自分のPOWを増やすことはできないが、呪文の対価として支払わせることは可能である。
 このボトルにPOWがある限り、ボトルは毎日1d2ポイントMPを回復させていくが、POWが枯渇した場合このシーシャはAFとしての力を失う。
 
 このAFには副作用が存在する。このシーシャを使用した場合、即時にCON*4ロールが入り、これに失敗すると耐久力が1d6、成功しても1必ず減少する。この減少は、通常の治療では回復しない。続けて使用した場合、対抗値は*3、*2、と減っていく。
 このシーシャによって耐久力がCONの数値以上減った場合、不定の狂気として依存症を引きおこす。この水煙に対する依存症は一定時間以内にこのシーシャを使用しなければ正気度が1d4+1減少する。このAFによる身体への異常は病院での治療、もしくは自然回復で治癒する。精神への異常は、相応の施設の元で適切な治療を受けることによって回復することができる。精神分析による治療は一時的なものにしかならない。
 *便宜上、道中で出会うオフィ―リアたちの魂を全て還したとしても固定で50とする。望むならば返した人数*10のPOWを差し引いても構わない。
 
 
その他
〇AFはお持ち帰り可能?
→基本的に不可です。シーシャを完成させた場合にのみ、織原を説得することによってそれを持ち帰ることは可能です。楽園の主が瓶から出たがっている事はないこと、きちんと管理すると誓うならば織原は渋々承諾します。この場合、定期的に織原から管理の確認の連絡が来るようになるでしょう。