穢レ星の腕-ケガレボシのカイナ-

 
 
うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと  ─江戸川乱歩
 
  あやかしクトゥルフ対応シナリオ

穢レ星の腕-ケガレボシのカイナ-

0.概要

 ある日、妖たちの中である噂が広まった。──荒れ地に芽が吹いた、枯れた湖が潤った。これは奇跡に相違ない、と。探索者はその噂の正体を突き止めるべく、都会の喧騒から離れた、過疎の村に訪れる。
 
[イントロダクション]
‣推奨人数 … 1~2人
‣舞台  …  現代日本。別の時代に改変可能。
‣推奨技能
 ★☆☆:目星、図書館、回避を含む自衛程度の戦闘技能
‣推奨スキル
 ★★★:浄化   ★☆☆:動物会話、空を飛ぶ
※高火力は非推奨
 
[シナリオデータ]
‣背景
 やがて消えゆくであろう小さな集落「夜哭村」と、その命運を共にしようとした大妖がいた。長らくその村と共に在り、村を支えてきた大梟である。土地神などと大それた存在ではないが、穏やかで子を好ましく思う優しい妖怪だった。
 人が減る一方の夜哭村だったが、導入の1ヶ月前に一人の赤ん坊が生まれる。新たな命の誕生を喜んだ大梟は星に願った。
「この痩せた土地に、少しばかりの豊穣を。枯れた湖に潤いを。子が育つだけの幸を」
 大梟の祈願は星に届いた。彼の元に一筋の流れ星が飛来したのだ。ただならぬ妖気をもつその星は、痩せた土地と枯れた湖。それを満たす代わりに大梟に自らを受け入れさせることを提案する。そして大梟はその提案を飲んでしまった。
 大梟は埋め込まれたものが災いを振りまく穢れであると気づいた時には既に時遅く、抵抗するもじわじわと思考をその身を汚染されていく。やがて穢れに完全に汚染された大梟は、その星から溢れだした穢れた豊穣を護る為、呪術を持って村を常闇で覆ってしまう。
 溢れだした穢れはすぐさま村を呑みこみ、人も動物も植物も歪な進化と豊穣を手にした。唯一妖たちは対抗も出来たものの、皆大梟に喰われ、呪術の礎とされてしまう。
 
‣エネミーデータ
穢レ星
・大梟に埋め込まれた穢れの核──「穢レ星」の正体は「宇宙からの色」の幼杯である。
 宇宙からの色は幼杯を孵すにやって来たが、夜哭村の痩せた土地、枯れた湖では幼杯は育たない。その為発芽するまでの苗床として、大梟の額に幼杯を埋め込んだ。
 やがて幼杯から孵った幼い宇宙からの色は夜哭村の生態系に入り込み、異常な発達、進化、豊穣をもたらす。明るい場所を嫌う為、大梟の妖力を持って夜哭村を常闇の世界へと閉じさせている。
 やがて夜哭村だけでなく周囲の村を呑みこんでいき、生体となって夜哭村を飛び出すころには、S山を丸々枯らしてしまうだろう。
 
大梟
 夜哭村を見守り続けた梟型のあやかし。穢レ星の媒体、端末と化したもの。
 夜哭村を中心とするS山は実りのない痩せた土地で、口減らしが積極的に行われていた。無念にも殺された子供たちはやがて一つに集まり「タタリモッケ」へと転じていく。しかし、夜哭村の人々は口減らしの子らを忘れることなく、きちんとその霊魂を慰めていたため、子らは親を祟ることもなく、大梟へと成っていった。
 探索者が辿りつく頃には既に思考を汚染されきった状態となっている。
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STR:14 DEX:1 INT:8
CON:2 POW:12 SIZ:30
耐久力:18 DB+2d6
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触肢:65% … DB
湖から虹色のゼリーの触手が無尽蔵に伸び、肉体的に傷つける。1Rに複数人へ攻撃することができる。
ついばむ:40% … 1d4+DB
 
夜哭村の少女
・大梟の庇護を受けた少女。表情が乏しく、話す言葉はカタコト。両腕が周囲と同じように発光していること以外に異常はない。
 大梟は汚染されきる前に、夜哭村で生まれた最後の子へありったけの祝福を授けた。歪な進化や発達を極力抑えるというものである。結果、歪な形になる事はなく、2週間ほどで10代前半の少女へと急成長した。探索者達が訪れたその瞬間も成長しており、<目星>に成功すればその様子を見る事も出来る。
 現在は祝福を授けてくれた大梟に餌となる妖力を与える為、妖たちを夜哭村に引き込んでいる。また多大な祝福と溢れる豊穣に満ちた少女は人食いの妖からは極上の素材として見える。
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STR:12 DEX:8 INT:5
CON:16 POW:3 APP:20*
SIZ:7 耐久力:12 
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*妖に対してのみ異常な魅力を持つ少女となる。人間の目からすればAPP11~13程度。
吸収:60%(ダメージ…妖力1d3+1)
妖しく発光する腕で人間、妖へ触れることでMPもしくは妖力を吸い取る。
 
 

1‣導入

 季節は5月頃。天気は雲一つない晴天である。
 人々に紛れて暮らす妖である探索者達。時に日々を謳歌し、または辟易しながら過ごしている。そんないつもと変わらぬ日常の最中、同じ妖から世間話程度として、はたまた好奇心旺盛な妖が噂の真相を確かめてきてほしい、といって聞かされるかもしれない。
◇噂話について
荒れ地に芽が吹いた、枯れた湖が潤った。これは奇跡に相違ない。という噂が流れている。
・都心から少し離れたS山あたりでははないか
 
 噂話に関してインターネットを利用し<図書館>に成功することで以下の情報を得ることができる。
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■S山について
 山の中腹から麓にかけて、ちらほらと人口200人を下回った所謂限界集落と呼ばれる村が点在している。都心から電車、バスを数時間乗り継いだ先にある。痩せた土地で実りは少なく、交通の不便さはあるものの、年中通して穏やかな気候のため、質素に暮らすならば住みよい場所だ。また、S山には100~200年前に枯れてしまった湖の跡地があるという。
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■「流れ星」についての書き込み
 2週間ほど前、山に流れ星が落ちた、という書き込みを見つける。観測所は何も発表していないためデマとされているが、書きこんだものは確かにこの目で見た!と強く主張している。10日前にこの目で確かめてくる、といった書き込みを最後に男の書き込みは途絶えている。
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2‣S山

 山に赴くと過疎化が進み、廃屋や寂れた看板標識、ひび割れたアスファルトの道路が哀愁を漂わせている様を見るだろう。ぱっと見て人の姿はなく、まるでゴーストタウンのようだ。
 ここで人間から得られる情報はない。1時間程探し回ればようやく1人2人見つけることができるが、それくらいである。
妖力判定/周囲に妖の気配を感じることはできない。スペシャル以上の出目でかすかに蠱惑的な香りを感じる事が出来る。
*KP向け補足:S山の周辺の妖は夜哭村の様子を見に行った際に、または少女に誘い込まれて村に入り、大梟に喰われてしまった。元々S山には大梟以外に強い妖はおらず、あっという間に姿を消してしまったのである。
<目星>/僅かに野鳥が残っているのを見つける。野鳥は探索者達の姿を見つけるとぎゃあぎゃあと騒ぎ、まとわりついてくる。[動物会話]が使えるものがいれば、ここで動物から話を聞くことができる。
 野鳥たちはS山から生物の気配が消えていっているのを感じている。そのことを不気味に思って藁にも縋る思いで探索者達の元に訪れたのだ。
◇周辺の動物たちから得られる情報
・夜哭村の周辺で「夜哭村に芽が吹いた、枯れた湖が潤った。この山に庇護が戻った」と言って回っている奇妙な少女がいる。
・それにつられて、夜哭村に行った連中がいるが帰ってこない。辛うじて帰って来た数匹はおかしくなっていた。どいつもこいつも奇妙な身体になっているのだ。
・出てきたものは半日と持たずに死んでしまう。その死体は数時間程度で溶けて地面にしみこんでいく。
・赤、紫、青、緑。色んな色に移り変わっては夜の中でぼやっと光る。
・ちょうど出てきた奴が向こうにも居るから来てほしい
 
 話を聞きおわるか、話が聞けない探索者がそのまま鳥について行くとやがて道から外れた獣道に入る。そこで極彩色に煌めく、異形の鳥の死体を見付ける事が出来る。足は5つ、股、翼の関節、額から不規則に生え、右翼と内臓が融合し、体内から露出していた。目玉のふちからは尾羽が生えている。奇妙で、均等のない乱れた形をした死体だ。
 
妖力判定/この鳥からは異様な、妖力とも言えない不浄な気を感じる。
<生物学>or<アイデア>/この鳥がにどのようにして生物として成り立っているのか検討も付かない。だが肉が異常に少なく、妙に骨ばっていることからこれは餓死に近いだろうと感じる。
<目星>/その死体が発光している事に気が付く。僅かに、しかし確かに鮮やかな色はうねり、体の主が骸となり果てている事にも厭わず光を放っている。また確かに溶けだしていて、地面に染みていっているように思える。
 
 異形の鳥の死体を調べ終わった後、がさりと気配を感じる。振りむけば、そこには芳醇な妖力で満たされた少女が居る。そこにまだ鳥がいた場合「あいつだ、あいつが変な噂を流してる奴だ」と騒ぐ。
 少女はふわりと微笑むと、くるりと背を向いて走り出す。探索者の足は自然と前へ進んでおり、無意識に彼女を追いかけようとする。止まろうと思えば止まることもできるが、夜哭村へ行って調査をしなければならない探索者は、どっちにしろ彼女を追わなければならないだろう。
 

3‣夜哭村:入口

 夜哭村では大梟の吐き出す呪詛によって常闇の空間が生み出している。しかし、空間の外から見る夜哭村は極々普通の村であり、何も変わったところがない。人の姿も見当たらないが、S山の他の集落も似たようなものであり、夜哭村に限った話ではない。
 夜哭村に1歩踏み入った時、初めてその異変を感じることができるのだ。
 
 少女を追いかけて来ると、夜哭村の敷地内に入った時点でふっと少女の姿は消えてしまう。探索者も続いて中に入るなら、夜哭村の異常な姿を見る事だろう。
 以下は描写例
【ギン、と頭の中で音が劈くと同時に……目の前が暗くなった。
それと同時に、今まで感じたことのない強い違和感と、奇妙な妖気を感じた。どこか落ち着かず、駆り立てられるかのような感覚だ。
血と妖気が、今までにない速さで全身を駆け巡り、汗が滲み息が浅くなる。
この強い違和感は一体何か?……それを確かめるべく、君達は頭を振って目を開く。
まず目に入ったのは墨のような空だった。
今の今まで太陽が顔をのぞかせていたというのに、辺りは一瞬で夜に移り変わっていたかのようだ。
しかし、その空をじっと見て君達は疑問に思う。──「これ」は夜空なのだろうか?
そこには一縷の光さえ望めぬ闇。一分の隙のない黒。それはまるで墨壺の底であり、黒漆拵えの肌のようだ。
月も、星も、雲さえも見ることが出来ない。
暗闇の天蓋とも呼べるようなものがそこにあり、夜哭村を覆い尽くしていたのである。
次に目に入ったのはそこかしこに生い茂ってる植物、辺りをさ迷い歩く人間と動物だ。
植物はどれも奇形な形に成長しており、そのすべてが奇妙な色に発光している。それは外で見た鳥の死骸と同じ色をしていた。
どれもこれもが豊かに大きな果実をぶら下げており、捥いでも捥いでも極彩色の果実は次々と実っていく。
人々はそれを尊び、拝み、次々に果実や野菜を収穫してはそのまま口に運んでいた。
その実りを喜ぶ者達は全て、先程死んでいた鳥の様に奇怪で、極彩色に発光していた。
1/1d4の妖力判定が発生する。
 
 村人は誰もかれもが異形と化している。<目星>に成功すればネットで流れ星の件を書き込んだ、登山装備の男も見付けられるだろう。彼も村人と同じく村の果実を喰らい、異形と化した。
 彼らは右腕から左腕が生えている者がいれば、左肩から2つ目の頭が生えている者もいる。2人の人間が歪にくっつき、2つの胴体に2本の脚、3本の腕に癒着した2つの頭があることもあるかもしれない。全員が共通することは楽しそうに、そこらの果実をもいでは口にしている事だけだ。
 話しかけても彼らは異形の実りを喰らうことをやめない。また言葉の端々にうまいという言葉を混じらせるのでまともな会話は望めないだろう。辛うじて「村にようこそ」「土地神に感謝を」といった意図の言葉を発するのみである。
「あんたらもうまい、この村にうま、住みにきたのかうまい」
「歓迎うめ、するうま。土地神さまばんざいうま」
 
◇植物や動物、人間に[浄化]を行う。
 異形と化した部位、極彩色に発光する箇所がスルスルと溶けていく。溶けたそれらはゲル状になって地面に落ち、滲んでいった。
 植物の場合、見る見るうちに枯れていく。その枯れた姿こそが、夜哭村の植物の本来の姿である。しかし地に根を張っている植物はそこから再び穢れを吸収してしまうので5~10分で元の歪な植物に戻ってしまうだろう。
 動物、人間の場合、大方の異形は元に戻る。しかし完全に元の姿に戻ることはない。また再び果実を摂取するか、長く夜哭村に留まり続ければ再び異形と化していくだろう
 

4‣少女

 探索者が夜哭村の異常性を調べている時、そろりと少女が近づき、探索者のうちの一人に抱きつき、1d4ポイントの妖力を奪う。少女はしたり顔で逃走するが、上手く捕まえられれば話を聞くことができる。
 多大な祝福に満ち、異常な成長とげた彼女だが、基本的には人間であるためにスキルは有効に活用できる。
◇少女の話
・物心ついたころ(1週間ほど前)からこの村はこうだった。なにもおかしいとは思わない。
・自分は1ヶ月前に生まれたのだと、とちがみさまが言っていた。
・とちがみさまは昔は普通の妖だった。でも、「星」を手に入れて力を手に入れて、この夜哭村を守るとちがみさまになれたらしい。
・沢山祝福を受けた分、お返しをしなければならない。とちがみさまはここを常夜の世界として守るために力を使い、お腹を空かしている。だからあなたがご飯になって。
 
 少女は無邪気であり、なんの罪悪もないまま探索者に贄になることを望む。しかし悪意や、罠に嵌めてやろうという思考もない。なにより自分が間違っているとは思っていない。基本的に彼女は答えられる質問には答える。少女のRPはあまり邪悪にならないように心がけること。基本的には、母のような存在を助けてあげたいと願う優しい少女である。もっとも、倫理観などは持ち合わせていないが。
 

5‣夜哭村:湖

 少女を捉えられなかった場合、また少女にとちがみさまの場所を案内してもらうように頼むと、少女は夜哭村の奥へ進む。やがて杉の林をするすると抜けていき、やがて一面木をはらったかのように開けた場所にでる。元々湖があった場所であり、地面は少しくぼんでいるようだ。
 そして見てみれば枯れたはずの湖に、確かに水のようなものがはっていた。時折発光し蠢き、ゼリー状の質感をしている。どうみても普通の水ではないが、少女はそれも意に介していない。彼女は迷わずにその湖の中に入っていく。
 少女が向かっている湖の中心部には岩場があり、そこには巨大な梟のあやかしが天を仰いでいた。少女はそのあやかしに近寄ると、先程探索者から奪った妖力を渡し始める。
 
<目星>/彼の頭上にまあるい、お星さまのようなものがくっ付いてるのが分かる。目を凝らせば、それは根を張っており、寄生しているようにも見えるだろう。
*KP向け補足
 大梟に寄生している幼杯は、今は受信機のような役割をしている。宇宙からの色自体は夜哭村全体に染み込んでおり、遠隔操作を行っているに過ぎない。
<聞き耳>/大妖がなにやらぶつぶつと唱えている。よくよく聞けば、彼のあやかしが呟いているのは子守唄だということが分かるだろう。夜哭村を永久の闇に包んでいるのは、あの妖の呪文のせいではないかと感じる。
 
 大梟は探索者の姿を見ると、嬉しそうにおいで、と手招く。もはや正常な思考を失った大梟は探索者をくらい、この村の礎にすることしか頭にない。言葉を交わすことはできるが、探索者と理解し合えるようなものではないだろう。
 探索情報は少ないので、KPはこのタイミングで大梟からある程度の情報を喋らせても構わない。(自分が星を呼んだ、この地の豊穣は日の光に弱い。守るために常闇に包んでいる、など)
 会話をしてもしなくても、最終的には大梟は探索者を喰らわんと襲い掛かってくるだろう。
 
◆◇戦闘レギュレーション◇◆
‣大梟はSIZ30ある大型の妖であり、虹色に発光するゼリー質の湖の中心の岩に留まっている。
‣彼の眉間の間に寄生する幼体に<浄化>を行うには、大梟を転倒させる必要がある。大梟のHPを半分まで削ることで転倒させる事が可能。そのほか<空を飛ぶ>なども有効である
‣彼に近接攻撃を与える場合、湖に入らなければならない。行動前に妖力判定を行い、失敗した場合1d4の妖力が減少する。
 
 また、大梟に攻撃を始めれば少女が黙っていない。彼女は戦闘の初めに「やめて、私たちを守ってくれている、私たちのとちがみさまなの、殺さないで!」と悲痛な叫びをあげる。探索者が止まらない場合、2ラウンド目から戦闘に参加するだろう。
 
大梟の額に埋め込まれた穢レ星を浄化すればED1、倒してしまうもしくは倒されるとED2へ移行する。
 

END1‣流レ星の腕に抱かれ

 闇の帳の中、浄化の光が溢れた。穢れを穿ち溶かすその光を受けた大梟はたまらずに身をよじる。赤子の泣き声のような、絞められた鳥の断末魔のような悲鳴があがった。
「───────!!!!!!!」
 パン!という音が響くと同時に、大梟の額の星は砕けた。彼のあやかしは村を見渡し、身を見直し、最後に少女を見る。何も言うことはなかったが、大梟からは深い悔恨の念を感じることだろう。
 そして何も言わぬまま、大梟は翼を広げる。そして光の粉(こ)を散らしながら、一直線に上へ……まるで宵闇に落ちていくようにかの大妖は「流れて」いく。やがて村を覆っていた黒漆の天蓋に辿りつき、それを打ち破ってしまうだろう。
 打ち破った「黒」の向こう側は……溢れんばかりの星が煌めいていた。大梟は最期に、自分のしでかしたことに対する罪滅ぼしと、夜哭村のすべての人間の為に、己のすべてを燃やして穢れ──宇宙からの色を滅ぼさんとする。
 空気とぶつかりながら駆けあがった身体は煌々と燃えさり、村中に火の粉が舞い散っていく。母がその腕で子を抱くように、愛しい人間とこの村をいだき、忌まわしき色全てを焦がしていった。
 
ねんねん ころりよ おころりよ
ぼうやはよいこだ ねんねしな
ぼうやのおもりは どこへいった
あのやまこえて さとへいった
さとのみやげに なにもろうた
でんでんだいこに しょうのふえ
 
 やがて、全ての穢れが燃えつくされると、辺りの人間も動物も、次々に意識を失って倒れていく。目覚めた彼らは何も覚えてはいないだろう。
 そして探索者の足元には、元気に泣く赤ん坊の姿がある。夜泣きの声が、静まり返った村に良く響いて行った。
 
END1‣流レ星の腕に抱かれて:生還報酬
生還 1d4
穢レ星を浄化した 1d3+1d4+2
子供を殺さなかった 1d4
 
 

END2‣穢レ星の腕に抱かれ

 大梟は最期に、苦し気な断末魔を上げ──翼の先から黒ずみ、崩れていった。そして同時に黒い天井が崩れていく。大梟が倒れたことで、その術が解除されたのだろう。
 そして、倒れると同時にその額からころりと星が落ちた。星はゼリー質の湖の中に落ちてしまう。するとゼリー質の水は触手のような形になって持ち上がり、探索者を捉えようと蠢きはじめる。これは常夜を守るため、大梟に変わる者を探そうとしているのだ。
 探索者はすぐその場から離れないとその触手に捕まり、穢レ星を埋め込まれてしまう。すぐに逃走するなら判定は不必要。尚浄化を行ってる猶予はなく、行おうと振り返ったらそれが探索者の最期となるだろう。クライマックス描写後、ロストとなる。
 
 S山から脱出したところでようやく触手は追ってこなくなる。探索者が振り向くと、夜哭村地点に煌々と輝く星と、その光に飲まれていく夜哭村を見ることだろう。悍ましいその景色を見る者達は誰ともなくぽつりとつぶやく。
 
「まさしくあれは穢レ星。禍津日神の星に相違ない」
 
 それから1か月後。夜哭村の集落の人間と動植物。それらすべてがミイラのような…絞りつくされたかのような異様な状態で発見される。その日の夜にはきっと、極彩色に煌めく星が空に輝くことだろう。
 
END2‣穢レ星の腕に抱かれて:生還報酬
生還 1d4
穢レを持ち帰った -1d3+技能値変動
 →探索者は1d6を振り、出目に応じた場所に回復不可能な穢れを受ける。それぞれに対応する技能の初期値を1d8減少させる。尚この処理で1以下にはならない。
1:目
2:耳
3:喉
4:腕
5:足
6:心肺or脳or自身の核